妊娠時の栄養不足による母体と胎児の影響
妊娠中の栄養不足は胎児に悪影響を及ぼす可能性があります。エネルギーが不足していたり、タンパク質やカルシウムといった体格を構成する栄養素が不足したりすると胎児の低体重を招きます。また亜鉛やヨウ素といった細胞分裂や代謝に関わる栄養素が不足すると発育不良を招きますし、葉酸が不足すると神経管閉鎖障害という先天性疾患が発症する可能性が上がります。
栄養不足は母体にも影響を与えます。胎児に比べてしっかりと身体が出来上がっているため、影響は比較的少ないです。しかし鉄不足による貧血やエネルギーやビタミンB群不足による倦怠感や疲労感、食物繊維不足による便秘などの症状が現れることもあります。妊娠中は母体と胎児の二人分の栄養素を補給するために、食事に気を使う必要があります。
妊娠時に不足しがちな栄養素
妊娠時には通常時よりも必要となる栄養素の量が増えます。妊娠時に特に不足しがちな栄養素には以下のようなものが挙げられますので食事を中心にサプリメントを活用して補うようにしましょう。
タンパク質
タンパク質は筋肉や皮膚、爪、髪の毛、歯など人間のほとんどの部位を構成する栄養素です。同時に代謝に関わる酵素や成長に関わるホルモンを合成するためにも必要になります。胎児はタンパク質をもとに体格を形成していくため、重要な栄養素になります。成人女性の1日の必要量は50gですが妊娠中期は+10g、後期は+25g必要になります。
肉や魚といった動物性の食品に多く含まれます。そのほか牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品、豆乳や豆腐、味噌などの大豆食品にも豊富に含まれます。
葉酸
葉酸はタンパク質を合成するために必要となるDNAやRNAといった核酸を作り出すために必要な栄養素です。胎児は細胞分裂が活発なため、妊娠中の栄養素の中でも特に重要な栄養素です。妊娠初期に特に必要となり、不足すると「神経管閉鎖障害」という先天性疾患を発症する可能性が高まります。
成人女性の1日の摂取基準は240μgですが、妊娠中は400μg ~480μgの摂取が推奨されています。妊娠が判明してからではなく、妊娠を考えている段階から多めに摂取するとよい栄養素です。葉酸はその名の通り、ホウレンソウや菜の花、パセリ、モロヘイヤなどの葉物野菜に多く含まれます。緑が濃い野菜ほど多い傾向にあります。
ビタミンB12
ビタミンB12は葉酸とともに赤血球を作り出す働きをする栄養素です。赤血球は酸素を運搬する働きをするため、十分な量がないと貧血や酸素不足による発育障害を引き起こす可能性があります。成人女性の1日の摂取基準は2.4μgですが妊婦は2.8μgの摂取を推奨されています。
動物性食品に多く含まれているため、しっかりと肉や魚を食べているならば不足することはありません。特にあさりやしじみ、牡蠣などの貝類に多く含まれています。しかし植物性の食品中心の生活をしていると不足する可能性があります。
鉄分
鉄は赤血球の中のヘモグロビンの材料となる成分です。ヘモグロビンが全身に酸素を運搬する役割を担うため、鉄分の不足は発育障害を招く可能性があります。成人女性の1日の摂取基準は月経のない時で6から6.5mg、月経のある時で10.5mgです。妊娠初期は+2.5mg、中期、後期は+15mgが必要になります。
鉄はレバー類に多く含まれます。またそのほか牛肉や味噌、がんもどき、納豆、しじみ、あさり、パセリなどに多く含まれています。
亜鉛
亜鉛はタンパク質やDNAの合成の際に必要となるミネラルです。細胞分裂が活発な胎児には重要な栄養素です。亜鉛は日常の食生活の中でも特に不足しやすいミネラルのため意識的な摂取が重要になります。成人女性の1日の摂取基準は8mgですが、妊婦の場合は10mgの摂取が推奨されています。
亜鉛は牡蠣に特に多く含まれます。また牛肉やカニ、卵、チーズにも多く含まれています。一方、野菜や果物にはあまり含まれていないため動物性食品の摂取が重要になります。
カルシウム
カルシウムは骨や歯を形成するほか、筋肉の収縮や神経の興奮を抑える働きをするミネラルです。胎児の骨格を形成するために重要な栄養素で、妊娠中の不足が続くと低体重や生まれた後の成長不良に繋がる可能性が高まります。成人女性の1日の摂取基準は650mgです。妊娠中の摂取量は成人女性の1日の基準と同じですが、耐用上限量(どれだけ摂取しても大丈夫かという数値)が2500mgのため少し多めに摂取るとよいでしょう。
カルシウムは牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品のほかさくらえびやしらす干し、木綿油揚げ、木綿豆腐、小松菜、水菜などにも多く含まれています。カルシウムは吸収率があまりよくない栄養素のため、吸収率を上げるレモンや酢などの酸っぱい食べ物と食べるとよいでしょう。
妊娠時はビタミンA(レチノール)の過剰摂取に注意
ビタミンAには2種類あり、「レチノール」と「βカロテン」に分類されます。
皮膚や喉、鼻、肺などの粘膜を正常に保つ働きをする必須ビタミンで、妊娠中にも必要な栄養素ですが、「レチノール」の過剰摂取は胎児にとってのリスクとなります。
レチノールはレバーやうなぎ、あん肝、銀ダラ、ホタルイカ、すじこなどに多く含まれます。
妊娠中のビタミンA(レチノール)の耐用上限量を超える摂取が続くと胎児に奇形が現れるリスクが高まります。また最悪の場合は流産を招く可能性があります。
妊娠中のビタミンAの摂取基準量は『妊娠中のビタミンAの摂取の仕方』を参考にしてください。
そのため妊娠時はビタミンAをβカロテンの形で摂取するのがおすすめです。
βカロテンは小腸で吸収される際、体内の必要量に応じてレチノールに変換されるという性質を持ちます。βカロテンの場合は過剰に摂取してもレチノールに変換されるのは必要量のみで、残りの分は抗酸化物質として体内で働きます。そのため、レチノールを過剰摂取した時のような奇形や流産の危険性はありません。
βカロテンは人参やホウレンソウ、モロヘイヤ、しそ、春菊などの緑黄色野菜に多く含まれます。
妊娠時の必要な栄養素が簡単に摂取できるレシピ
妊娠時に必要な栄養素がたくさん摂取できるおすすめのレシピを紹介します。
緑黄色野菜の和え物
画像参考元:cookpad
材料:
・緑黄色野菜(1束)
・ちりめんじゃこ(大さじ2杯)
・白すりごま(大さじ2杯)
1:緑黄色野菜をきれいに洗い、レンジで3分加熱します。
2:熱が通ったら水にさらして、水気をかたく絞ります。ちりめんじゃことすりごまを加えて和えて完成です。
緑黄色野菜は好みに合わせて変えましょう。小松菜ならばカルシウムが豊富、ホウレンソウならば鉄分やβカロテンが豊富です。
納豆マーボー豆腐(2-3人分)
画像参考元:cookpad
材料:
・納豆 2パック
・豆腐(出来れば木綿) 1丁
・ネギ 1/2本
・サラダ油 適量
・マーボーの素
(以下 素を手作りする場合)
・ショウガ 1片
・ニンニク 1片
・しょうゆ 大さじ1
・みりん 大さじ1
・酒 大さじ1
・豆板醤 大さじ1
・花山椒 お好みで
1:サラダ油でネギを炒めます。(素を手作りする場合はショウガとニンニクも)
2:ネギが透明になったら納豆を加えて焦げないように混ぜ合わせます。
3:マーボーの素を加えます。(素を手作りする場合は混ぜ合わせた調味料をすべて加える)
4:さいの目に切った豆腐を加えて熱が通るまで加熱します。
妊娠初期のつわりで食事が取れない場合
妊娠初期は特につわりで吐き気が生じ、食事を十分に摂取できないことが多いです。
妊娠初期の場合は胎児がまだ大きくなく、一部の栄養素以外はそこまで過敏に摂取しなくてよいでしょう。妊娠初期に十分に摂取しておきたい栄養素は、葉酸と亜鉛と鉄分です。
どうしても食べられないときは上記の栄養素が摂取できる葉酸サプリメントを利用するようにしましょう。
- 参考記事
- 医師が教える妊娠中の葉酸サプリの選び方
また、食欲がない時でも水分はしっかりと摂取するようにしましょう。水分不足で血液の流動性が低くなると栄養素の運搬効率が低下します。
まとめ
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