葉酸の摂取は妊娠1ヶ月前から3カ月までが最も大切
葉酸には“食事の時に摂取できる葉酸(以下、食事性の葉酸)”と“サプリメントから摂取できる葉酸(以下、モノグルタミン酸型の葉酸)”の2種類があります。葉酸の種類によって「いつからいつまでの期間で摂取した方がよいのか?」と「その摂取量」が変わってきます。
食事性の葉酸は、18歳以上の女性は毎日240μgを食事から摂取することが推奨されています(※1)。食事からの葉酸摂取は妊娠前から卒乳まで欠かすことができません。
葉酸は私たちの体内で細胞や臓器を作り、血液を作り出す栄養素として働きます。葉酸の欠乏によって体調を崩さないためにも、普段から意識的に摂取していく必要があるのです。胎児の臓器形成時には母体からの葉酸が欠かせないため、妊娠時や授乳時はさらに必要な葉酸量が増加します。詳しくはこの後の章で説明します。
ではサプリメントから摂取できるモノグルタミン酸型の葉酸は、いつからどれだけ摂取したらいいのでしょうか。独立行政法人国民生活センターでは「『妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月目』までは食事からの葉酸摂取に加えて、サプリメントから『モノグルタミン酸型の葉酸を毎日400μg摂取すること』が望ましい」と伝えています(※2)。
これは妊娠前から妊娠初期にかけて、通常の葉酸摂取量よりも量を増やすことにより、妊娠初期に胎児に発症する可能性がある“脳や脊髄などの中枢神経に異常が生じる「神経管閉鎖障害」という先天性異常”を予防することが目的です。
妊活時から必要量の葉酸を摂取している場合には、神経管閉鎖障害の50~70%が予防できることが確認されています(※2)。
そのため、妊娠4ヶ月目以降における葉酸のサプリメント摂取については医師や薬剤師と相談をしながら飲用を進めていくことが望ましいです。
妊娠を意識しはじめた時や、妊活を開始しようとした時に葉酸の摂取がすすめられるのは、将来やってくる赤ちゃんに健康に育って欲しいからです。妊娠前からの葉酸摂取が推奨されているため、妊娠に気がついたタイミングから葉酸を摂取しても遅いと考えてしまう人が少なくありません。
しかし、今後の妊娠生活や自身の体のことを考えた場合、気がついた時から葉酸をしっかりと摂取することが大切となってきます。
妊活中から葉酸を摂取することのメリット
まず妊活中の人は「胎児が成長しやすい母体作り」のためにも、ぜひ今日から葉酸の摂取を意識してください。
葉酸は水溶性ビタミンB群の一つで、私たちの体を構成するたんぱく質や細胞を作り出すためには欠かせません。これ以外には赤血球の生成、妊娠初期における胎児の臓器形成にも影響を与えます。妊活中から葉酸を摂取することは母体の健康を保つことはもちろん、いつ妊娠をしても胎児が安心して成長できる環境を作るうえで重要なことなのです。
特に妊娠初期は胎児の臓器形成などのために葉酸を大量に消費します。そのため、母体の準備を妊娠前から整えておく必要があるのです。
胎児に発症することが問題となっている「神経管閉鎖障害などの先天性異常」を予防するためにも葉酸は欠かせません。厚生労働省は胎児が先天異常にかからないためにも、「妊娠を計画している女性または、妊娠の可能性がある女性は、神経管閉鎖障害のリスク低減のためにサプリメント等の栄養補助食品を利用して体への吸収率が良いモノグルタミン酸型葉酸を毎日400μg以上摂取することが望ましい」と発表しています(※1,※3)。
ここまでの情報から妊活中に必要とされる葉酸推奨量をみていきましょう。
【妊活時の葉酸摂取量】
● 食事性の葉酸:約240μg
● モノグルタミン酸型の葉酸: 約400μg
この時期は食事とサプリメントからバランス良く葉酸を摂取していくのがいいでしょう。葉酸は、ほうれん草やモロヘイヤといった青菜類をはじめ、バナナや牛や豚のレバーに多く含まれています。葉酸の働きを助けることが確認されているビタミンB12と一緒に摂取することで、より効率のより葉酸の働きが期待できます。
平成27年国民健康・栄養調査によると、30歳以上の女性の葉酸平均摂取量は240μg以上です。普段の食事から妊活時に必要な葉酸量が確保できていることがわかります。しかし15~29歳までの女性の平均摂取量は、234μgでした(※4)。妊活時の葉酸摂取量にやや足りていないため、葉酸が含まれている食べ物が摂取できていないと感じる人はこの機会に食生活を見直してみてはいかがでしょうか。
サプリメントからモノグルタミン酸型の葉酸を摂取する場合には、1日の飲用で400μg以上が確保できることが理想的です。なおモノグルタミン酸型の葉酸における1日あたりの摂取上限量は18歳~29歳の女性で900μg、30歳以上の女性では1000μgまでとされています(※1))。サプリメントを複数飲用している人は、葉酸の総摂取量が上限量を超えないように注意しましょう。
妊娠中期や後期も継続して葉酸を摂取するメリット
葉酸はつわりの改善や軽減、妊娠時に表れる貧血対策としても重要です。少しでもつわりを和らげるために、妊娠中も定期的に葉酸の摂取をおこなうほうが好ましいとされています。
厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、妊婦中の場合には通常摂取240μgにさらに240μg加えた480μgの摂取が推奨されています(※1)。ここまでの情報から妊娠時に必要とされる葉酸推奨量をみていきましょう。
【妊娠時の葉酸摂取量】
●食事性の葉酸:480μg
●モノグルタミン酸型の葉酸:400μg
この時期はつわりの影響で味やにおいに対して敏感になりやすく、食事量にも影響がではじめます。一般的につわり自体は12~16週目で自然と治りますが、妊娠期は食べ物の趣向や好みが変わりやすいです。そのため、食事とサプリメントを併用して自分が取りやすい形で葉酸を摂取していく必要があります。
なお妊娠30週以降に入ってからは「生まれてくる子供の喘息リスク」を考えてモノグルタミン酸型の葉酸を過剰に摂取しないよう気をつけなくてはなりません。
1998年から2005年にオーストラリアで「母親の葉酸摂取状況(タイミング・量・由来)と、子どもの喘息発症リスクの関係」に関する研究がおこなわれました。その中で妊娠後期(30~34週)にサプリメントによる摂取量の限度値である1000μgのモノグルタミン酸型の葉酸を摂取し続けた場合、生まれてきた子供が喘息を発症するリスクが高くなる可能性があると報告されています(※5)。
不安な場合には自分で判断せず、かかりつけの産婦人科医や薬剤師にサプリメントの使用を相談することをおすすめします。
産後も葉酸が必要と言われているのはどうして?
葉酸は産後も卒乳までしっかりと摂取していく必要があります。
授乳期には母乳の分泌に鉄が多く必要となるため、鉄不足や鉄欠乏性貧血といった状態になりやすいです。葉酸は別名“造血ビタミン”とも呼ばれており、体内で正常な赤血球を作り出すには不可欠です(※6)。産後の鉄不足や鉄欠乏性貧血を防ぐためにも葉酸の摂取が大切となってきます。
また母乳は母親の血液から作り出されているため、葉酸はここでも重要となってきます。赤ちゃんの食事が母乳中心の場合には、母親の体に取り入れられている・作られている栄養分がそのまま赤ちゃんの栄養になるのです。
葉酸は細胞分裂にもかかせないことから、出産で酷使した子宮などの臓器の修復に欠かせません。さらに葉酸には胃をはじめとする消化器系の粘膜の状態を保つ作用があるため、不足すると食欲不振や下痢などの症状につながります(※7)。他の症状や病気を誘発する原因にもなるため、しっかりと摂取していく必要があるのです。
また葉酸の摂取は「産後うつ」をはじめとするうつ症状の予防にもつながる可能性が示唆されています。国立国際医療センターの村上先生らがおこなった「日本人の食事習慣から栄養摂取量とうつ症状との関連」を調査した研究では、日本人女性において葉酸摂取量が増加するほど、うつ症状の人が減少傾向になったと報告しています(※8)。
しかし統計学的に有意な結果ではないため、葉酸とうつ予防の関係が示されたわけではありません。
厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、授乳中の場合には100μg加えた340μgの摂取が推奨されています(※1)。ここまでの情報から授乳時に必要とされる葉酸推奨量をみていきましょう。
【授乳中の葉酸摂取量】
●食事性の葉酸:340μg
できる範囲食事で摂取していくのが理想です。必要に応じてサプリメントでも摂取していきましょう。貧血等の症状が気になる場合には、鉄も含まれているサプリメントを飲用することをおすすめします。
もし医師から鉄剤をはじめ処方薬がある場合には、サプリメントを飲んでも問題がないかどうかを必ず医師や薬剤師に確認してください。
まとめ
ここでは食事による葉酸の摂取が妊活時から卒乳時までに欠かせないことやサプリメントを利用した摂取は妊活時から妊娠3ヶ月までの期間でおこなうことについて紹介しました。
妊活時や妊娠期などのタイミングによって必要な葉酸の量や摂取方法が変わってきます。そのため、まずは自分の状態に合わせて「どれだけの葉酸を何から摂取する必要があるのか」を理解しなくてはなりません。その上で食事とサプリメントを併用しながら上手に葉酸を摂取していきましょう。 |
- 引用文献
- ※1.日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要P.25
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf - ※2.独立行政法人国民生活センター胎児の正常な発育に役立つ「葉酸」を摂取できるとうたった健康食品P.3
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20110526_1.pdf - ※3.厚生労働省神経管閉鎖障害の発症リスク低減のための妊娠可能な年齢の女性等に対する葉酸の摂取に関わる適切な情報提供の推進について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/dl/h0201-3a3-03c.pdf - ※4.平成27年度食品栄養P.39表12栄養素等摂取量(1歳以上、女性、年齢階級別)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf - ※5. 国立健康・栄養研究所「健康食品」の素材情報データベース:葉酸 安全性危険情報<妊婦・授乳婦>
http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail605.html - ※6. 東京都病院経営本部 食事療法のすすめ方 貧血の食事
http://www.byouin.metro.tokyo.jp/eiyou/hinketsu.html - ※7.土屋書店 吉川敏一 ビタミン・ミネラル速攻事典P.81-P.85
- ※8.東京大学大学院医化学研究科社会予防疫学分野 栄養素摂取量とうつ症状との関連:成人日本人を対象とした横断研究
http://www.nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp/publication/japanese/11088.pdf
- 参考文献
- メディックメディア病気がみえるvol.10産科
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